石油に対する代替適格性を判断する基準の一つが「汎用性」だ。なぜなら、石油は現実に社会の全消費部門のエネルギーを担っているからである。こんなエネルギー源は他には存在しない。現時点で石油に取って代わるには、ある程度の汎用性が要求される。

よって、自然エネルギー、原子力、石炭などでは、喫緊の課題である石油問題を根本的に解決することはできない。詳しくは「なぜ石油に代わる最有力候補は天然ガスなのか?」の「前半」「後半」で触れたが、水力以外の自然エネルギーはまだルーキーであり、実績ある大型水力のポテンシャルは枯渇が近く、原子力は「電力化率の壁」と「電源性質の壁」の両方に阻まれて十数年前から伸び悩んでおり、石炭は汎用性がなく炉で燃やす以外に使い道が狭い。つまり、本格的に石油の代わりが務まるのは、エネルギーの性質・これまでの実績・資源量などから考えて、天然ガス以外にありえないのである

だが、この論理では、天然ガスはしょせん石油の“代用品”でしかない。食品などは典型だが、そもそも“代用何々”と呼ばれる商品にはろくなモノがない。「石油の代わりに仕方なく選ぶ」という姿勢も消極的で、質的に今より後退するような印象を受ける。ということは、石油文明から、一次エネルギーの主役をガスとするメタン文明へのシフトは、「やむをえない逃避」であり「文明の後戻り」にすぎないのだろうか。

ところがである。私もなかなか気づくことができなかったのだが、どうやら天然ガスには石油を超える汎用性・融通性・利便性があるらしいのである。偏見や先入観を排してよくよく調べてみると、天然ガスのエネルギーとしてのポテンシャルは石油を凌駕することが分かる。しかも、常温で安定した気体であるがゆえに、より優れたエネルギーシステムを作ることができるのだ。これは空想や願望ではなく、やろうという政治的意志と常識的な予算さえあれば、現実に完成することのできるものである。

これがメタン文明のもつ「6つのメリット」のうちの五番目である。以下から詳しく検証してみよう。
天然ガスは運輸部門で石油の代替が可能だが…
まずは石油の独壇場ともいえる運輸部門から見ていこう。同部門のエネルギーの98%は石油系燃料であり、電力は2%にすぎない(用途はむろん電車用)。そして燃料消費の9割が自動車(乗用車・貨物車)で占められ、残る1割が船舶とジェット機だ。厳密にいうならディーゼル機関車が20万kl程度の燃料を消費しているが、数に含めなくてよい。

このように、かくも石油依存度が極端であるため、それが高騰すると真っ先に直撃を受けるのが運輸部門だ。今日、石油が文明に欠かせない戦略物資とされるのも、運輸燃料を一手に引き受けているからに他ならない。よって、代替適格性を問われるとしたら、何はともあれ「運輸部門のエネルギーを担えるか否か」という基準が筆頭に来る。これをクリアできないエネルギー源は、決して石油の代わりをすることができない。

天然ガスはそれが技術的に可能だ。自動車でいうと、宅配便やタクシーなどでよく見られる「天然ガス車」がある。給エネ部分でやや改装はいるものの、エンジンは従来の内燃機関を使うことができる。また、「天然ガス船舶」や「天然ガスジェット機」はまだ珍しいが、すでに実在している。このように、天然ガスは運輸部門を丸ごと担うことができる。

ただし、である。その場合、天然ガスは“本物(石油)”よりも劣る“代用品”でしかない。というのも、常温で液体の石油にカロリー的に対抗しようと思えば、マイナス160度以下のLNGとならざるをえないが、当然、取り扱いが難しくなる。よって、圧縮ガスが妥当な選択となるが、それに対して石油系燃料のほうが扱いが簡単で、内包する熱量も多い。天然ガスのメリットといえば、せいぜい排ガスが少しばかり環境に優しいことだ。

これでは、天然ガスで本格的に運輸燃料の代替を進めた場合、乗り物の性能を後退させてしまうことになる。ということは、しょせん天然ガスは “緊急時の代打”にすぎないのか。ここで発想の転換が必要だ。前回の四番目のメリットのところで、「自動車をEV化し、その電力を高効率の天然ガス火力で賄う形にしていくと、どんどん省エネが進展していく」という構想を述べた。これは天然ガスが間接的に自動車燃料の代替を担う方法だ。

現在、EVは内燃自動車に比べ、性能面ではやや劣るものの、日々の燃料費を勘案した経済性ではすでに勝っている。しかも、蓄電池やモーターの技術は日進月歩なので、性能面で抜き去る日も近いだろう。よって、自動車はあくまでEV化させ、天然ガスはそのエネルギー源となる電気(二次エネルギー)を効率よく生産することに徹したほうがよい。

自動車のEV化による新規電力需要は3千億kWh弱と思われるが、技術革新のおかげで、火力ならば発電効率の向上に投資することで、最終的に燃料消費量を従来のレベルに抑えながらこの増加分を賄うことができる。しかも、火力は比較的、増設や改装が容易だ。ところが、軽水炉ならばあと40基程度の新設が必要になると思われる。もちろん、自動車がおおむねEV転換を終えるまでの期間中にどれだけ自然エネルギーを普及させられるかによって、この両者の重荷も変わってきよう。

このように、間接的な方法で石油系燃料の代替をすることは、一見、後退のように思えるかもしれないが、「ガス文明化で大幅な省エネが実現する」で述べたように、最終的に国家として大きな省エネに繋がることを思えば、むしろ進歩なのである。

ちなみに、天然ガスを化学処理することによって、GTL(Gas To Liquid)という液体燃料を作ることができることにも触れておきたい。これは石炭の液化よりも化学的にやや容易で、環境負荷も小さい。GTLはガソリンや軽油、化学原料の代わりになり、かつ現在の原油価格なら十分に採算も取れる。ただし、省エネ等の観点から、私はあくまで自動車のEV化を強く推奨したい。GTLは自動車以外の用途を考えるべきだと思う。

では、残る1割部分の船舶とジェット機に関してはどうか。船舶は小型のものなら自動車と同じように電化が可能だが、大型化するほど難しくなる。また、ジェット機の電化はまったく不可能だ。よって、大型船舶とジェット機には、あくまで「燃料」が必要だ。今言ったように、天然ガスはすでにその燃料としての役割を担っている。むろん、GTLの導入も選択肢だ。ただし、せっかく石油生成藻類を利用したバイオ燃料の製造が始まっているので、私としては環境面と国内産業育成の観点からも、バイオ燃料を大型船舶とジェット機のエネルギー源とすることを推したい。

以上のように、天然ガスは石油の独壇場である運輸部門を支えることが可能だ。ただし、石油の直接代替をする手法では、技術的に可能だとしても、自動車性能の向上や省エネに寄与しないことに留意する必要がある。よって、天然ガスは、EVの電力を支えるという形で、間接的に石油の代替をしたほうがよい。また、船舶とジェット機に関しても、無理に天然ガスで代替せず、潔くバイオ燃料にその座を譲ったほうが賢明だ。(後略)